2022映画ベスト10

 

 ランキング自体はTwitterの方で上げたものですが諸々の補足、というか選定理由などを明記して自分は何が見たいのか、どんな軸で作品を評価しているのかということを明文化するためにも改めて長めの文章を書くことにした。またこの順位はランキング作成時のものなのでその日の気分によりある程度前後するものでもある。

 

第10位 死刑に至る病

これは素直にびっくりした。びっくりしたのは話のほうではなく(寧ろこの映画の落ちは主人公以外の人間、当事者以外の客観的な視点で見ると「そりゃそうだろ」という想定内の話であり想定内であるからこそ恐慌をきたすたぐいの話である)この映画の人当たりのいいシリアルキラーを演じる阿部サダヲのCVが石田彰であったことだ。

阿部サダヲのCVは阿部サダヲだろ、と言われればそれまでなのだがこの映画における阿部サダヲの振る舞いが、一挙手一投足が概念としてのイデアとしてのCV石田彰としか言いようがないのだ。石田彰吹き替えのリドラーを期待して観に行ったザ・バットマンがあまり映画自体の出来は別としてあまりCV石田彰感がなく、その部分については不満があったところに突如供給されたCV石田彰、これにびっくりした。CV石田彰CV石田彰うるさいですねこいつ。

また撮影・演出でも面会室という碌に構図も作れない空間をこれだけ多様な方法で演出していたところにも可能性をかんじてよかった。(プロジェクションマッピングの使い方は最近の高橋洋の映画を想起した)

 

第9位 ケイコ 目を澄ませて

異様なまでに端正な映画だった。映画というか諸々の作品において他者について語ることについてこの映画は徹底的に誠実だ。

主人公のケイコは聴覚に障害のあるプロボクサーである。他者について語ることについて不誠実な作品であればこのような属性の主人公を周囲から愛されるような、障害こそあれ人当たりのいいキャラにされがちだがケイコは他者からの理解を拒む。

常にうっすら機嫌は悪いし積極的に自分の事を理解してもらおうと思ってもいない、観ている側からしても感情移入を拒む主人公だ。

だが終盤においてケイコの書いた日記(それ自体は簡潔な内容だ)を彼女が通うジムの会長の奥さんが朗読することで、言葉を発さないケイコの代わりに声を出す事で観客にケイコの人間性の一端に触れさせる。映画は内面を描くことができない、映画を撮るということは脚本の時点では存在していた文芸性をはぎ取っていく作業だ、と黒沢清は言っていたがこの映画は映画1本分の尺をかけながらも勝手に推し量ることもなく内面を語ることに成功している。

またこの映画では環境音が主人公ともいうべき活躍を見せている。環境音フェチも要チェックだ

第8位 グリーンナイト

デヴィッド・ロウリー滅茶苦茶映画うめ~~~~~~~

純粋にショットとショットの繋ぎ方が技巧的で良かった。でもこの順位は直前に蓮見重彦のショットとは何かを読んでいたから、というところもある気がする。

長回しのワンショットで見たことないような時間処理があったりガウェインの想像と現実をワンショットで撮ったり技術それ自体は珍しいものではなくなってきた長回しの可能性が拡張された感じもある。

話はずれるんだけれども自分は滅茶苦茶アイルランドの風景が好きで、関係ない場所に旅行しても近いものを感じると「実質アイルランドだ」「この岩と荒地、アイルランドでは?」という感想を出力し、周囲を困惑させることが多い人間なんだけれども、この映画は題材がアーサー王伝説で舞台がウェールズにも拘らず風景の節々にアイルランドを感じることができたのでそういう意味でもいい映画だった。(その後パンフを読んだらロケ地はアイルランドだった。)

第7位 THE FIRST SLAM DUNK

原作を全然読んでないのに見たんだけどハチャメチャに面白かった。(中学生頃の俺はギャグマンガ日和の飛鳥文化アタックのとこだけをyoutubeで見て「ギャグ日面白すぎw」と分かったようなことを言っていた同級生にいちいち「いやそのネタまぁ面白いけどあの漫画のネタだと中の下くらいだよw」と突っかかっていてその頃の自分と比較すると流行ってからという理由で原作未読作品の映画を観に行く、という行為をする現在の俺はずいぶん汚れた大人になったなぁ)

まず映像表現が凄すぎる。井上雄彦の絵柄が躍動し終盤のゾーンに入った選手たちの主観が投影された、長く引き伸ばされた時間の演出がに圧倒された。試合そのものが眼前で行われているような臨場感、にもかかわらずアニメ映画として完全にコントロールされた演出、リアルな試合とアニメのコントロールされた演出を両立させたすさまじい映像体験だった。

また構成も素晴らしい原作では掘り下げられることがなかった宮城リョータを主人公にして、その回想と現在進行形で行われる試合をリンクさせることで原作既読者にはファンサービスを、未読者には単体作品として楽しめるように縦軸をそれぞれ提供するというアイディアが素晴らしく未読者の立場にもかかわらず物語に没入することができた。

(本筋から外れるがこのフォーマットを使えば例えば噓喰いのエアポーカー編などの長期連載作品の名エピソード単体で映画化することも可能ではないだろうか?)

 

第6位 かがみの孤城

基本的にこのランキングは面白かったか、というところだけではなく何か新しい発見があったか、みたいなことも重視しながら順位をつけているんだけどこの映画に関してはなんかもうどうしようもないぐらい自分の心の柔らかい部分に触れられてしまったのでこの順位にしてます。

ギャグマンガ日和の暗さとBUMP OF CHICKENの暗い歌詞と家にあった手塚治虫のどうしようもなく暗い短編集に救われていた時の学生時代の俺にそのまま伝えてあげたくなるような誠実なメッセージ性を原恵一の繊細な演出を載せられれば正直泣かざるおえない。