2023年映画ベスト10

ランキング自体はTwitterに挙げたものなのだがその選定理由を挙げていく。





⑩EO

面白かったか、と言われると面白い映画ではなかったが監督がやりたい事がなんとなくわかるし、そのやりたいこと自体も固有性の高い事なのでこの順位に。

一見して分かるように今作は無声映画の如きクラッシックな佇まいを誇っている。例えばリュミエール兄弟の列車の到着がそうであるような。

無声映画は映像そのものに対する驚愕がある。列車の到着が上映された時の観客が映像から逃げ出した、というエピソードからもわかるだろう。

その、無声映画的な、映画の原初的光景を人はもう語れない。人は語り手としては自意識が強すぎ、その思考はあまりにも文脈を帯びすぎている。

2023年にもなってクラシカルな映画の原初的光景を顕現させる、その手段として人のように物語を見出さない語り手としてのロバを据える、という着想も必然性があり、スコリモフスキ当人がやるべきことをやった、というところで好感触がある。

⑨PERFECT DAYS

なんとも破廉恥かつ、共感性羞恥を刺激される、文系のインテリ崩れ、インテリもどきにむけたポルノグラフィティな作品ではある。

トイレ清掃員ではあるが実はインテリな役所広司が家出してきた姪っ子ちゃんから小説の趣味を褒められ(その本というのがハイスミスの11の物語、というあたりが俺のようなインテリもどきを狙い撃ちしてくるような選定だったりするのだ)、破顔するシーンに至ってはその邪念がピークを迎え、普段の自分であれば”そういうの恥ずかしいから辞めろつったよな”とキレてしまっただろうが、きれなかった、というか上映中ずっと幸せな気分であった。

今作をインテリ崩れ向けのポルノグラフィティになるのを救っているのが主演役所広司の存在である。終始かわいいのだ。ちいかわが実写化されるとしたらもはやちいかわ役は役所広司以外にあり得ぬだろう、と考えてしまうくらいには終始かわいいのだ。

名優、役所広司の人徳の高さをここまで生かした映画はないだろう。

アルマゲドンタイム ある日の肖像

ジェームズグレイ監督作品、初めて見たけど映画がうますぎる。

良質な文芸作品特有の言語化しにくいモヤモヤを抱えたまま劇場を去ることになるタイプの良作。

⑦鬼太郎誕生ゲゲゲの謎

端正なルック、適切な編集、ディテールの練られた美術、という辺りで冒頭10分の時点で既に好感度が高かったのだが終盤の展開がマジで良かった。

こんな糞みてえな搾取で成り立っている糞みてえな村、及びこんな糞みてえな村の存在前提で成り立っている糞みてえな国なんぞ滅んじまえ!!俺含めて全員死ね!!というテンションからのそれを断念する流れがどちらも納得できるものだったのが本当に良かった。

若干話は変わるがこの制作側が明確に政治的メッセージを発しているこの映画に対し、因習村なるネットミームを用い、脱政治化して受容をしようとしているタイプのインターネットのオタクを俺は心の底から憎悪しているし小馬鹿にしている。

明確に政治的なメッセージを発している作品からテーマ性をスポイルして語りなおそう、という振る舞い自体作品に対し不誠実かつ政治的な振る舞いに他ならないだろう。*1

⑥首

期待値はあまり高くなかったが滅茶苦茶良かった。

期待値が低かった理由としては構想30年という前情報と北野武がインタビューで大河ドラマのような甘っちょろい歴史ものではない汚い歴史を描く、というようなことを言っていたのが引っかかっていたからなのだが、自分としては近年の大河ドラマは最新の研究を取り入れてテンプレから逸脱した人物像を描くことが多いし、主人公の負の側面にも目をそらさず描いているので北野武の認識が古くなっているのでは?構想30年とは言ってもその企画は旬を逃しているのでは?と考えていたが杞憂に終わった。

北野武が主張するところの大河ドラマとの違い、具体的に言うと武士も百姓も区別せず愚弄しているというところであろう。

百姓関連の描写を取り上げると本作の百姓は歓声を挙げながら処刑を見物し嬉々として落ち武者狩りを行い人死に全般にあっけらかんとしている、実際的な存在として描かれている。

戦国武将の描き方も容赦がなく、衆道*2切腹*3といったロマンは主に秀吉の視点から理解不能なものとして描かれる。

終盤百姓でありながら武士の価値観を内面化した茂吉は落ち武者狩りに巻き込まれ命を落とし、反面百姓の価値観を保持し続けていた秀吉は山崎の戦を制し、”首なんてどうでもいいんだよ馬鹿野郎!”と光秀の首を蹴り飛ばし幕を閉じる今作は七人の侍のテーマ*4をよりラディカルに実践している。

禁じられた遊び

ここ何年も不調だった中田秀夫がひさしぶりに面白いホラー映画を撮ってくれた、というのが何よりも嬉しい。やはり邦キチの作者の如き小馬鹿にしても怒られない作品を探すことにばかり長けた凡俗が馬鹿にしていい作家ではないと再確認した。

序盤の構成はややもたつくがそこを超えると如何にもなJホラーから始まりペットセメタリーものにジャンルが変わり、終盤に至ってはオーメンに変容する、というジェットコースターっぷりがとにかく楽しい。

シソンヌ長谷川が演じる胡散臭いが実力のある霊能力者が秒殺されるシーンが特に好き。本物の霊能力者が怪異に秒殺されるシーンが本当に好き。ダークギャザリング……来る。……禁じられた遊び……

④ミンナのウタ

ここ何年か軽んじられていた清水崇がしっかり怖いホラー映画を撮ってくれたのが本当に嬉しい。やはり邦キチの作者が如き借り物の画風で内容は小馬鹿にしても怒られない作品を探してきて小馬鹿にするだけの、人のふんどしでしか相撲のとれない自分のふんどしも買えねえ貧乏力士が小馬鹿にしていい作家ではないと再確認した。

GENERATIONのアイドル映画でもあるのだがそれがかえって幸いしたのか清水崇の当人がやりたい要素を詰め込みすぎて構成が散漫になる悪癖が上手いこと抑制されたのか近年の村シリーズと比較して綺麗に纏まっている印象があり、ノイズ無しにホラー演出の冴えにおいては当代一のキレを誇る清水監督の技巧に酔いしれることができる。

ザ・ショックや呪怨白い老婆などの先行作品のの引用も正確に機能している点も見過ごせない。

何と言っても今作の目玉は悪霊高谷さなであろう。生前の時点で低い倫理観と当人にしか理解できない使命感で害を振りまき、目的のためには自身の命を絶つことすら厭わないその姿勢、ヴィランとしての圧倒的な格の高さを見せつけてくれる。

リング・呪怨以降の貞子加耶子のエピゴーネンから脱却した悪霊像としてこれを称揚したい。*5

 

 

③雨にぬれた舗道

特集上映で今年公開の映画ではないが日本公開は初なのでランキングに入れてしまった。ほとんど山岸涼子のホラー漫画。でもアルトマンのほかの監督作を見るからに異色作っぽいのが残念。円盤きたら絶対に買うしその時に記事を書きたい。

 

②フェイブルマンズ

これはあまりにもよかったので記事書きました。

ononoooon.hatenablog.com

①シン・仮面ライダー

ononoooon.hatenablog.com

完成度の高い映画では決してなかったがこの映画のことを言語化していく作業は極めて幸福な時間だった。

 

 

 

 

 

*1:政治的なメッセージを発している作品からテーマ性をスポイルして語りなおそう、という振る舞いを政治的な振る舞いだと自覚している者に関しては許す

*2:延々と色ボケかましている荒木村重明智光秀の扱いを見よ

*3:なげーんだよ馬鹿野郎!まだ終わんねえのかよ!

*4:勝ったのは百姓たちだ

*5:高橋洋が映画の魔で書いた反復され、当人の自我が擦り切れ、呪いを振りまくシステムに成り上がった貞子と、生前も死後も強靭な自我と明確な目的意識を持ち呪いを振りまく高谷さなは好対照である