印象に残ったコンテンツ2023 3月

鳥 ダフネ・デュ・モーリア

・短編集、というよりは中編集で、個人的には一作品が長めの短編集お得感がないのであまり好きではないので期待値は低かったが驚くことに傑作ぞろいだった。

・陰鬱なラブストーリーでありつつ幽霊譚がごとき雰囲気を纏う「恋人」、怪談のようでいて話運びはリアリズム文学の「林檎の木」など収録作品のどれ一つとっても技巧的かつジャンル分け不可能な作品ばかりで好ましかった。

・傑作ぞろいだがどの短編が一番好きかというとやはりヒッチコックの原作にもなった「鳥」になるだろう。

・単体の脅威としては大したことがない敵にも関わらず包囲され生活に不可欠なインフラから切り離され人海戦術により消耗を余儀なくされどんどんこちら側の戦力及びリソースが摩耗していき崩壊に近づいていく、というあたりが好きで自分の理想とするゾンビ小説(ゾンビではない)を思いがけず発見した、と感じた。

 

ヨーロッパとゲルマン部族国家 マガリ・クメール ブリューノ・デュメジル

・名著。末期ローマ関連は面白い

 

ヨーロッパ・イン・オータム デイブ・ハッチソン

・前半の分裂したヨーロッパのマイクロ国家群を舞台にしたエスピオナージが終盤にかけてプリースト風のSFに転換するのだが急すぎて混乱した。

・平行世界云々は比喩表現だと思って読んでいたら比喩じゃないぽかったのも混乱をきたした。面白かったが

 

タローマン・クロニクル

・ここまでくるとホルヘ・ルイス・ボルヘストレーンウクバールオルビス・テルティウスの世界やね。文句なしの傑作。

 

ナウシカ解読 増補版 稲葉振一郎

J・G・バラードの後継者としての伊藤計劃作品を批評を読めたので良かった。

虐殺器官とかもろにバラードの「戦争熱」なので伊藤計劃について云々するならまずバラードから話を始めるべきでしょ、と思っていた身としてはこれは嬉しい文章だった。

・本書掲載の長谷川裕一論を読んで思ったのだが稲葉先生はグッリドマンシリーズの文章を書いたりしないのだろうか?問題意識が近いところにある気がするんだよな

 

H・P・ラブクラフト ミシェル・ウェルベック

・批評というより登場人物が一人しかいない小説と本人も書いていたがその通りだと思う。

 

吉田知子選集 脳天壊了

・初めて読む作家だけれどもこういう安易なジャンル分けを拒絶するような作家は好きだなぁ、と感じた。

・常寒山の一人称と三人称が横断して境目がグズグズになっていくあたり本当にすごい

 

映画

エンパイア・オブ・ライト

サム・メンデスとは相性がいい。この人の作品はあと「お家を探そう」を見ればコンプリートできる。ここで映画が終われば最高!というところでしっかり映画が終わる