平清盛全部見た

というわけで大河ドラマ平清盛を全部見終えたのでその感想を。とは言っても見終えたのが結構前なので記憶に残っているところだけ。それと弊ブログは大河ドラマを体系的に見れているわけではないので事実誤認等が発生するかもしれないのでもしこれは変では?というところがあればご指摘していただければありがたいですね

 

断片的な感想

・今作の特色を挙げると演出面では時間と空間を横断するショット、作劇面では主人公の負の側面から目をそらさず、闇堕ちもとい老害化を描いている、という点にある。

・今作は時間と空間を横断するショットが頻発し、それが技術に淫するのではなく脚本と絡み合い十全に機能している。

・今作は平家滅亡の報を受けた頼朝が最大の敵であり、武士の世を作った先駆者でもある平清盛の人生を回想、という形式を採用している。

・通常物語をかたられる際、過去から未来という直線的な時間処理が採用されることが多い。今作では過去と現在を往復する、複雑な時間処理が採用されている。

・未来からの回想形式がもたらしたものの一つとしては平清盛という毀誉褒貶相半ばする人物を描くうえで極度に美化もせず、かといって悪魔化もせず描くことに成功している点であろう。頼朝のナレーションはある後世からの批評であり、その後世からの批評という形式により清盛もその敵対者もフラットな視点で描かれている。

・今作の清盛は白河院のご落胤であるという説を採用しているのだがこの白河院老害、若しくはもののけとして扱われており、死後も影響力を発揮し続けている。清盛が育ての親であり尊敬していた忠盛と自分は血がつながっておらず、邪悪な最高権力者であり軽蔑していた白河院の子であると知り、アイデンティティの危機を迎えるがそれを克服し、武士としてのアイデンティティを再獲得する、という序盤の山場から始まり中盤の自分と同じく白河院の血を引く後白河法皇との暗闘、事実上の最高権力者になった清盛がすっかり自分が憎んでいたはずの白河院と似通ってしまった=もののけと化してしまい、やがてそこから開放されるカタルシスのあるクライマックスを迎える。

・特に印象に残ったシーンを数点挙げると病に苦しむ清盛が見る、長い夢のシーンある。作品自体が頼朝の回想という形式のなかで更に夢を見る清盛の回想が入れ子になる、という複雑な構成もさることながら今作の特色である時間と空間の横断も夢特有の時系列の混乱を演出するのに十全に機能している。

・終盤に向かいもののけと化していく清盛に反して頼朝が若き日の清盛のように、武士の未来を体現するような存在になっていく中、離れた地にいる清盛と頼朝が空間を超え、切り返しショットという文芸映画的な演出があるがこのシーンは本作の作劇・演出の総決算だと言えるだろう。

・最終話において冒頭で清盛がなくなり、平家が滅び、その時点で頼朝のナレーションも終わるのかと思いながら見ているとその後の自分自身の死を語り、更に未来に飛び鎌倉幕府滅亡まで語ってしまう、という凄まじい時間処理演出があるのだがその遠未来において清盛の亡霊が波の下の都で滅んだ平家の一族に再び邂逅し物語の幕を閉じる*1

・これは想像だが近年の犬王、アニメ平家物語は今作に深く影響を受けているのではないだろうか?題材は近しいし、どちらも時間と空間の処理に工夫があり先行作品として参照された可能性は高いと思うのだが。